手元の熱





「えぇ……と」

「だから、ここ!」

「ああ、そこか……ってアレ?」

「はぁ………」





現在の状況はといえば。

ウィルが、セインに弓を教えている、という事になるのだが………
始まりは、セインの感興からきたものだった。


元々不器用なのか、もしくは弓を扱う事自体相性が悪いのか。
先程からかなり時間が経っているのだが、さっぱりと上達する気配が見受けられない。

それどころか、弓の構え方がなかなか定着しないようで、手つきから既に可笑しかった。

「だから…そこは、ここに手を持っていって…」
「ああ、そっか……」
セインは、毎度同じ事を繰り返され、一度は真似て同じ様にやるものの、二度目に繰り返させるとやはり出来ない。
どうしてこんなに弓に関しては出来ないんだろう、と疑問になる。



槍の扱いだったら……上位の聖騎士にも負けないくらい、強いというのに。
もう数えきれないほど、戦場で見惚れていた。
力強く、振るわれる槍捌きに。


自分も、あれくらい力強く、自分も弓を扱う事が出来たら。
――そう思っては、必死に弓の訓練を積み重ねてきた。



「あっ、こっちの手は……どこに添えるんだっけ」
「………ハァ」





それでも、ようやく構えの態勢はとれるようになり、次の段階へと移る事にする。

「じゃあ、こっちの手をですね――」
くいっ、と彼の手に触れる。
「ふんふん」

さらっ、とした指。
もっと触れていたいな、と思った感情を抑えて、すぐに彼の指から手を離す。

「ここで、ぱっと」
「離すの?」
「そうです」
ウィルはそう答えて、練習用の矢をセインに渡した。

またも、指と指が触れる。
さらり、と擦れた感触でさえ、心が揺れた。



「……じゃあ、一回構えの態勢を取ってみて下さい」
「おう」

セインは、先程言われたとおりに、真剣な眼差しで先を見据え、
まだ覚束無い手つきではあったが、綺麗な構えの形を取った。

「…こんな感じかな」
「そうですね」
ウィルは答えてから、まただ、と思った。

時折見せる、真面目な表情。
その表情に、憧れ以上のものを抱く様になったのはいつの事であったか。



「大丈夫そうですから、実際に射ってみて下さい」
「分かった」

セインはそう答えるが、なかなか矢を射ようとしない。
真剣に射る的を見ている様なのだが、まだ手が震えていた。


「…まだ難しかったですかね?」
「う〜ん……なんか、視点が合わないっていうか…」
セインは、イイトコまでいったのになぁ、なんてぼやいている。
そして、静かにしゃがんで、的を眺めた。

「でも、さっきのセインさん、結構良い目をしてましたよ」
見惚れかけました、と本音までは言わない。
けれどもセインは、
「………そうかな?」
案外、満更でもない様子でありがと、なんて言ってウィルの頭をくしゃりと撫でた。
「………」

「よし、もう一度やってみるか!」
セインは一回伸びをして、再び弓を手に腰を上げた。
その時、何かが、セインに影を落とす。

「?」


最初は、いつもの事の様に捉えていた。
彼の顔が近付いてきて、これからどうするのか。
たまたま今日はこんな事をしていたから、また弓の事について、手本でも見せてくれるのではないかと。


けれどもそんな甘い考えは、どれも当てはまらなかった。





何気なく見上げたつもりが、そっと上からその影に覆われる。
ゆっくりと、温かな日差しの様に。

弓に伸びるであろう掌は、何処か、身近に感じられる位置を包みこんでいる。



「………ん、…」




……あつ、い。

体ではなくて、何だろう。
そうだ

………触れ合っているところ、と顔が、あつい。





暫く重ね合っていたものを、離す。
途端に、零れた言葉。


「………子供扱い、しないで下さい」



セインは、茫然としていた。
顔を真っ赤にする事もなく、ただ目を見開いたまま。

お陰で、綺麗な自然の色をした瞳が、潤みを持つ。





どのくらい、そうしていただろうか



気が付けば、何をしてしまったんだろうと、みるみる後悔がウィルの頭を擡げた。
しかし、こうなっては弁解する術もなく、ただじっと彼の瞳を見つめ続けていた。

けれど、その状態のままでも綺麗だ、と思う
優しさが微かに籠った、瞳の色。



「…そっか、そうだよな」

「…セインさん、」

「お前だって…俺に弓を教えてくれるくらい、一人前なんだもんな」
何事も無かったかの様に、笑って返してくれた。
その笑顔も大好きで、そんな性格にも憧れに似た様なものを持っていて――



「……やっぱり、セインさんにこれ以上弓を教えるのは止めとこうと思います」

「えぇ、そりゃないぜ、今更かよ?」
セインは、拍子抜けした様な声でそう叫んだ。

「だって、セインさんが弓まで使える様になったら、僕の取り柄無くなっちゃいますもん」

「ちぇ、結局は無理かぁ…」
残念そうに呟くが、何処かで清々している様子さえ、見受けられた。
「でもまぁ、それもそうだな」

そう言って、ウィルに借りていた弓と矢を返す。
ウィルの手に、先程まで触れていた彼の体温が、伝わる気がした。



「……俺、セインさんにはやっぱり槍が一番似合ってると思います」


だから、そのままで。
変わらずに、戦場で槍を手にしていてほしい。



「……お前は、それがやっぱり似合うよ、…っていうかそれしかないんだっけな」
「酷いですよ、何ですかその言い方ー!」


「悔しかったら馬に乗って弓使える様になってみな!」
「言いましたねっ、…だったらやりますよ、僕!」
「おう、やって見せてみろ!!」


セインは怒るウィルをからかって、笑いながら逃げていく。




「やってみせますよ、そうしたら、もっと…」










貴方の傍で、戦える気がしたから。












End


初書きウィル×セイン。 こっそり裏で好きです、この二人。
セインは何気に白銀騎将寄りになろうとしてみました、でも無理でしょうね←

そして以外にウィルって使ってみると頼りになるんですね…今回初めて使ったんですが。
セインとウィルは支援あってもいいんじゃないかと思うのは私だけでしょうか。



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